デジタルカメラ自由研究 一眼レフ vs コンパクト Round 3

受光素子を考える

前回、一眼レフタイプとコンパクトタイプで使用される
受光素子の大きさが違っている事について触れました。
しかしここで少し疑問が出てきます。
なぜ大きさが随分と違うのに画素数には大きな差がないのだろうか?
まず、この辺りから考えて行きます。

高画素化の秘密

受光素子の大きさが違うのに、どうして画素数に大きな違いがないのでしょうか?
逆説的には、画素数に違いが無いのに受光素子に大きさが違うのでしょうか。

ハガキの上にマーブルチョコを、名刺の上にミンティア(フリスクでも良いかも)を
それぞれ出来るだけ隙間無く並べていったと考えてみましょう。
だいたい100個くらい乗るかな?

マーブルチョコやミンティアの一粒が1画素だとすると…
両方とも96画素の受光素子だと言う事になります。
一方はハガキ大の大きさで、もう一方は名刺大の大きさです。

つまり小さな受光素子で高画素化を実現するためには、
画素密度を上げる…すなわち画素サイズを小さくすれば良いわけです。

話を本物の受光素子に戻します。
受光素子のサイズとそれを構成する画素数が判っているのですから、
割り算で1画素当たりの大きさを求める事が出来ます。

一眼レフとコンパクト、600万画素の受光素子同士で計算してみると…
IXY DIGITAL 70 (有効画素数 約600万画素)に使われている受光素子の1画素当たりは
2μm(マイクロメートル)平方で、
EOS 10D (有効画素数 約630万画素)に使われている受光素子の1画素当たりは
7μm平方になります。(※大雑把な計算です。実際にはもっと小さいはずです)
(1μmは1000分の1mm。昔はミクロンと呼ばれていた大きさです。)

この二つで比較すると1画素あたりの面積比でEOS 10D で使われている受光素子の方が
IXY DIGITAL 70 で使われている物より 12 倍大きいと言う事になります。
ちなみに受光素子全体の大きさでは面積比 14 倍になりますね。
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余談になりますが…

画素サイズ2μmで35mmフルサイズセンサーを作ったとすると
18,000 ピクセル×12,000 ピクセルで総画素数 216,000,000 ピクセルの
超巨大画素数のセンサーが作れる事になります。なんと2億1600万画素です。
12 bit の RAW データで約 220 MB くらいのデータサイズになると考えられ、
現在、入手が比較的容易で最大級の容量を持つ 8 GB のメディアでも 36 カットしか撮影できない計算になります。
JPEGに圧縮すれば、20 MB 弱まで小さくなると思われますが、それでも 1 GB のメディアで
50 カット程度しか保存できないと言う事になります。

現状の最高機種でも内蔵されるバッファRAMは 512 MB 程度だと考えられるので、
秒間 3 コマの連続撮影すら難しくなってしまうだろうと想像できます。
高速メディアでも書き込み速度は秒間 10 MB 程度だと考えると、
メディアへの書き込み時間が JPEG でも 2 秒、RAW データなら 20 秒程度必要となり、
とても実用には耐えられないのではないかと思われます。

ちなみに解像度を 350 dpi にすると 1300 mm × 870 mm で B1 サイズの 1030 mm × 728 mm より大きくなります。
家庭用インクジェットプリンタの最大出力サイズが A3 ノビ(483mm×329mm)ですから、超オーバースペックです。
仮に、やや高精細なデータを要求されて 400 dpi で入稿するとしても出力サイズは 1143 mm × 762 mm
あまり現実的な画素数だとは言えませんね。

画素サイズの大きさが画像の及ぼす影響

一般的に画素サイズが大きい程、ダイナミックレンジ(明暗の階調)が広くなると言われています。
これは受光素子で出来た電気信号を扱いやすくするために増幅する段階で、
暗部のノイズ信号も増幅されてしまうため、結果的にザラついた画像になってしまう傾向が強い事と
明部に関しては、電気的な容量が小さいためオーバーフローしやすくなる傾向があり、
結果として白トビの原因となっていると考えられます。

実際には画像処理チップなどで様々な処理を経て記録メディアに保存されますから、
単純にこの通りであるとは言えない部分もあります。
具体的にはノイズ除去などが代表的な例と言えるでしょう。

ただしノイズ除去処理には、それなりの弊害もあります。
サラつき感が少なくなるかわりに階調性が乏しくなる傾向があり、
また見かけのシャープネスが低下してしまう事も挙げられます。

現状、ノイズと階調がトレードオフのようになってきています。
個人的には若干のノイズが残っても階調性が保たれる方が良いと考えます。

実写画像による検証

実際に受光素子サイズの異なるデジタルカメラを用いて比較テストをしてみました。

外部フラッシュを使う事が出来ない、
コンパクトデジタルカメラを含めた比較なので、
光源には 500 W のブルーフラッドランプ
(デイライト光のタングステン球)を使いました。

電球から約 40 cm 離れたところに
トレーシングペーパーを垂らして
光を拡散させています。

カメラのホワイトバランスは太陽光です。

ドレープをつけた黒いフェルトの上に
白い人形が置かれています。
コントラストの条件としては、
かなり厳しいのではないかと思います。

中央部分を同じピクセルで切り出した画像を
比較画像として下の表に並べました。

EOS D30
EOS 10D
EOS-1D Mark2

 

IXY DIGITAL 200
IXY DIGITAL 70

Exif のデータでは似たような数値で大差はないはずなのですが、
実際には各々のカメラで味付けが異なるのか、撮影された画像には差異が認められます。

ただし、コンパクトデジタルカメラの画像も当初の予想以上に良いデータとなっています。
発売時期で5年の差は、ここまで進化させるのかと驚いている。

まとめ

単純に考えて、受光素子の大きさが画像に及ぼす影響だけに着目した場合、
価格差を考えても一般ユースにはコンパクトタイプで充分耐えうると考えられます。

ただし、画像表現という観点から見ると、やはり受光素子サイズは大きな方が
光学系との関係を含めて、より広い表現力を持っていると考える事が出来るでしょう。
事実、コンパクトの高画素機では色収差と呼ばれる色の縁取りが現れています。
色収差はレンズに起因する現象なので、デジタル特有の現象ではありません。
ただデジタル画像としてみる場合、発見が容易になってしまいます。

フィルムカメラだと一眼レフもコンパクト機も同じフォーマットのフィルムを使っていましたから、
これほどまでの差異は無かったと思います。

用途と目的に応じてカメラ自体を選択する事も必要と思われますし、
複数台のカメラを所有する事を考えると、できるだけ大きな受光素子を持つカメラを
1台だけ所有すると言う選択肢も考えられます。

また別の観点で言うと、受光素子サイズが異なる事で同一の画角を得るために使う
レンズの焦点距離が変わりますから、映像表現という点で考えても、やはり大きな
受光素子にはメリットが多いと考えられます。
強いてデメリットを挙げるとするならば、価格が高くなる点でしょうか。

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